Menu

キシリトールで始める マイナス1歳からのむし歯予防

こんにちは。ママーレ・コーレのライター、せりです。
ママーレ・コーレでは、出産レポートの他に、妊娠中〜出産後にも役に立つ記事を定期的に発信していきます。

 今回は、出産前から知っておきたい!【キシリトールで始める マイナス1歳からのむし歯予防】をお伝えします。

なぜ「マイナス1歳から」なのか?

 みなさんは、「母子伝播」という言葉を聞いたことがありますか?文字通り、「母から子に広まり伝わる」ことです。

むし歯は感染症というのは、広く知られるようになりました。スプーンに盛ったご飯を冷ますときの息や、お箸・スプーン・フォークの共有で、むし歯菌が大人から赤ちゃんに移動・定着してしまうリスクは、妊婦さん向けの母親教室などで聞いたことがあると思います。
ここからは、むし歯をつくる菌の中で最も有名な「ミュータンスレンサ球菌群・Mutans Streptococci」(以下、ミュータンス菌)を例に挙げてご説明します。

 1999年に広島大学が行った研究では、お子さんから検出されたミュータンス菌のうち、お母さん由来が51.4%、お父さん由来が31.4%でした。(※1)

一方2002年、日中を保育園で過ごしているお子さんのミュータンス菌について、広島大学と同じような調査をした結果、お母さん由来が33.3%、お父さん由来が8.3%、子どもどうしを含む他者由来が58.4%で、保育士からの伝播は認められませんでした。(※2)

これらの研究結果から、お子さんへのミュータンス菌の感染は

  • 50%以上がお母さん由来
  • お子さんの口腔状態と生育環境も関係している

と分かったのです。
「スプーンを共有してはいけない」「歯が生える前でも、砂糖の入った飲食物は控える」とお母さんは気をつけていても、うっかり家族が食器を共有してしまうかもしれませんし、孫可愛さにジュースをあげたくなるおじいちゃん、おばあちゃんもいらっしゃるかもしれません。完全には防げないのが現実です。
そんなとき、”ラクに楽しく成果を出せる”むし歯予防があるとしたら、どうでしょう。それがまさに、赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる「マイナス1歳から」のむし歯予防なのです。ポイントは3つ(※3)あります。

  1. 予防(うつさない、うつらないにこしたことはない)
  2. 感染の遅延(遅いほど、軽症のむし歯ですむ)
  3. むし歯を、子どものお口の中に定着しにくい「善玉菌」に変える

前述の「スプーンを共有してはいけない」「歯が生える前でも、砂糖の入った飲食物は控える」や、1日に2回以上の歯磨きは1.予防です。では、2.感染の遅延とはどういうことでしょうか?一つひとつ見ていきましょう。

どうしてむし歯になるの?

 生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中に、ミュータンス菌はいませんミュータンス菌が赤ちゃんのお口の中に定着するには、土台となる家が必要です。それが「歯」に当たります。
「歯」に定着した「ミュータンス菌」が、「砂糖(ショ糖)」を餌にして酸と不溶性グルカンを作ります。

むし歯の原因を表すカイスの輪。ここに「歯を磨くまでの時間」を合わせた4つの輪がむし歯の要因です。

不溶性グルカンは、ミュータンス菌を歯につける接着剤のようなものです。強く歯に付いたミュータンス菌が出す酸は、歯からカルシウムを溶かし出します。これが、むし歯になるメカニズムです。
食後の歯磨きがむし歯予防に効果があるのは、不溶性グルカンで強く付着したミュータンス菌を取り除けるからなのです。

3歳までむし歯にさせないことが大切

 歯が生え始めるのは、だいたい生後6ヶ月くらいからです。
歯が生えてすぐミュータンス菌が定着するわけではなく、家である「歯」にミュータンス菌が入ってこれるのは、「生後19ヶ月〜31ヶ月(生後1歳7ヶ月〜2歳7ヶ月)」(※4)で、これを「感染の窓といい、一番むし歯になりやすい時期です。

この期間、ご家族はミュータンス菌の感染源として注意が必要です。特に2歳前に感染すると、むし歯になる「可能性」と「重症度」が高くなる(※5)ことが分かっています。「感染の窓」と併せて考えると、ミュータンス菌の感染を3歳まで遅らせられれば、”ラクに楽しく成果を出せる”むし歯予防が可能になります。

ミュータンス菌を「善玉菌」に変えるキシリトール。驚きのパワーとは?

 いよいよ最後です。”ラクに楽しく成果を出せる”むし歯予防のポイント3.むし歯菌を、子どものお口の中に定着しにくい「善玉菌」に変える方法をお伝えします。

そんな方法あるの?怪しい薬なんじゃないの?と思われるかもしれませんが、健康的に、気軽に、持続しやすい方法があるのです。ご存じの方も多いと思いますが、それはキシリトールです。フィンランド、スウェーデン、アメリカの研究ではすでに、キシリトールガムを1日5g〜10gを3回に分けて噛むと、むし歯予防に効果があると結果が出ています。(※6)

それを、北欧とは生活習慣、歯科公衆衛生システムの異なる日本人を対象に行った研究(※7)があります。キシリトールガムの摂取を「妊娠期」から開始し、「感染の窓」よりもずっと以前に中止してもキシリトールガムはミュータンス菌の母子伝播を予防したり、遅らせるのに有効と分かったのです。

歯科医院専売のキシリトールガムには、1粒に平均1.3gのキシリトールが含有されているので、1日に4回以上噛むと効果が得られる計算です。市販のキシリトールガムのキシリトール含有量はこれよりも少ないので、販売元に確認して噛む個数を計算する必要があります。

 では、キシリトールは、どのようにミュータンス菌を子どものお口の中に定着しにくい「善玉菌」に変えるのでしょうか?
キシリトールは糖アルコールという種類の糖で、ミュータンス菌は砂糖(ショ糖)と同じように取り込みます。一定量以上のキシリトールを取り込んだミュータンス菌は、不溶性グルカンの生成が抑えられ歯から剥がれやすくなり、菌の成長も抑制されます。その結果、ミュータンス菌の母子伝播が予防できると考えられています。

キシリトール、毎日摂っても大丈夫?

 キシリトールガムを噛みすぎて、お腹がゆるくなったことはありませんか?
前述の研究(※7)より、むし歯予防効果を期待するレベルのキシリトールガム摂取は、下痢などの胃腸状態にほとんど影響しないと分かっています。
個人差はあるので、不安なときは無理をせず、かかりつけの産婦人科や歯科医院に相談していただけると安心です。

1日2回以上の歯ブラシ・フロスでの口腔清掃と、フッ素入り歯磨き粉の併用、歯科医院での定期検診はむし歯予防に効果的です。通常の予防法に加えて、キシリトールの新習慣を始めてみるのはいかがでしょうか。

次回は、出産するとむし歯は増える?歯周病があっても出産できる?マイナス1歳からのむし歯予防 です。

(※1)Kozai K.,Nakamura R.,et al 「lntrafamilial distribution of mutans streptococci in Japanese famiIies and possibility of father-to-child transmission.」Microbiol lmmunol. 1999;43(2):99-106.

(※2)Tedjosasongko U.,and Kozai K. 「lnitiat acquisition and transmission of mutans streptococci in children at day nursery.」J Dent Child. Sep-Dec 2002;69(3):284-8, 234-5.

(※3)仲井 雪絵 ,「マイナス1歳からはじめるむし歯予防 」,株式会社オーラルケア,2011

(※4)P W Caufield , G R Cutter, A P Dasanayake 「Initial acquisition of mutans streptococci by infants: evidence for a discrete window of infectivity 」J Dent Res. 1993 Jan;72(1):37-45. 

(※5)B Köhler , I Andréen「Influence of caries-preventive measures in mothers on cariogenic bacteria and caries experience in their children」Arch Oral Biol. 1994 Oct;39(10):907-11.

(※6)Kiet A Ly , Peter Milgrom, Marilynn Rothen 「The potential of dental-protective chewing gum in oral health interventions」J Am Dent Assoc. 2008 May;139(5):553-63. 

(※7)Y Nakai , C Shinga-Ishihara, M Kaji, K Moriya, K Murakami-Yamanaka, M Takimura「Xylitol gum and maternal transmission of mutans streptococci(妊娠期からのキシリトール摂取が齲蝕原生菌の母子伝播および齲蝕発症に及ぼす影響)」J Dent Res. 2010 Jan;89(1):56-60.

ライター:せり(芹田枝里)
二児(小学生兄妹)の母。神奈川県在住の歯科医師

ママーレコーレ編集部

ママのあれこれを皆でシェアしたい」という想いに共感して集まった、あれこれ肩書きを持った人たち。